自分を支えているのは自分

「君は日本人かい?」

 

僕は「そうだよ」と答えると少し離れたところに彼は座った。

 

オレンジ色に染まる空が綺麗で少し風が強い夕暮れ時、少しの沈黙の後に彼は続けて話してきた。

 

「日本のどこに住んでいるんだ?」

 

僕は素っ気なく「東京だよ」と答える。旅行中は気安く話しかけてくる人には警戒するようにしている僕。警戒レベルは最高レベルだ。

 

それでも彼は「仕事は何しているの?」「日本には仕事がたくさんあるのかい?」「忙しそうだね?」と、質問してくる。

 

最初は彼の会話に素っ気なく返してきたが、彼の会話の意図に僕は気づいてから彼と笑顔で話すことができた。

 

彼はモロッコ東部のフェズに住んでいてネットで集客し個人でガイドをしており、今回ヨーロッパからフランス人の方が彼を雇ったみたいだけど、バックられたみたいだ。それに対して落胆し海辺を歩いていたところに僕を発見したみたいだ。

 

なんとも、かわいそうな彼。むしろ、この話も嘘で同情させてからお金をせびる詐欺かと疑っていたが、彼の落胆の仕方があまりにも本気で体の力がなく、詐欺をかましてくる力がないのは一目瞭然だ。肩の落ち方が、ずーっと楽しみにし予約完了していたゲームが手違いで予約できていなかったくらいの落ち方。

 

良い例えが見つからなかったが、このくらいだろうと推測する。

 

彼は僕と話しながら「モロッコは好きかい?」と聞いてきた。僕は「好きだよ。とても素敵な国と人たちだから」と答えた。

 

彼はとても喜んでいた。そして自分の抱えている問題を僕に話してくれた。モロッコではたくさんの仕事がなく仕事を探すことが本当に大変で、ある程度の水準で生活するにはそれなりの稼ぎがないと生きていけないんだろう。

 

彼は「仕事がないのは本当に問題だ」とため息交じりに話してくれた。落胆している彼だけど、今日のバスでフェズに戻ってまた何か仕事を探すと言っていた。

 

伝えたいことが全て伝わっていないかもしれないが、彼と色々話して良き刺激になった。

 

「明日やろうは馬鹿野郎だけど、明日から素敵なことができるよ」

 

今、そうやって今日を前向きに生きたら明日からはもっと前向きに生きれる気がするし、なんかそんなキブンだといい気分になれると思うんだ。

 

僕も負けない。その日歩ける一歩を歩くだけ。